下巻はこちら。
【読書日記】吉田修一『怒り(上下)』(中公文庫、2016年)
つかみどころのない真犯人よりも、その真犯人を取り巻く人々の心情や行動がリアルだった。極論を言えば、犯人は3人の誰でも成り立っただろう。否、この真犯人以外の人物のようが、読んでいる側もまだ納得がいったかもしれない。
真犯人ではない2人の男が逃走している(定住しない)理由が身につまされる。とくに、親の借金を肩代わりさせられてヤクザに追いかけられている男が、最後に「ムラ」の力で助けられる、というのは喜んでいいのか、どうなのか。助かったのはいいのだが、その後「ムラ」に縛られる人生が目に見えている。それはそれでいいのかもしれないけれど。
【高座日記】『桂米二兜町ひとり会第2回』@アートスペース兜座
「河豚鍋」、「初天神」、中入りときて小佐田定雄作「火事場盗人」というラインナップ。
今回、初めて知った言葉に「やいと」がある。話の流れでお灸のことだな、と見当はついたが、「焼いと」とでも書くんだろうか。帰路、夫に「やいとって灸のこと?」と聞いたら「せやで」と言い、頼んでもいないのに、「アルプス一万尺」の替え歌で「やいとの歌」を、朗々と夜更けの日本橋で歌った。この替え歌が、小学生男子がいかにも考えつきそうな歌詞でくだらなすぎて、今も思い出し笑いしている。
余談だが、最初か着替え後か忘れたけど、師匠の羽織の裏地が素敵だったな。
【読書日記】池澤夏樹、池澤春菜『ぜんぶ本の話』(毎日新聞出版、2026年)
春菜の「本は買うものと思っていなかった」(父親の蔵書と献本とプレゼントされる本でこと足りる)とか、本の時間無制限ビュッフェとか、本に囲まれた恵まれていた境遇を描写する語彙がもう的確で。
理系の夏樹はわりと理詰めでものごとを見ている。村上春樹のついては、『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』以降はあまり熱心に読んでいないそうで、その理由のひとつが文体が飽きたということ。もうひとつは、『ねじまき鳥クロニクル』で、科学的に絶対にあり得ない現象を堂々と描写しているからだそうだ。
情報が速く広がる時代、災害や非常時に必要なのは拡散ではなく見極める力です。
Blueskyは3月8日(日)〜10日(火)の3日間、「確かな情報を得る訓練」3DAYアクションを実施します。
混乱時に備え、信頼できる情報源を探してフォロー・ブックマーク。そして、あなたの見つけた情報源やヒントをハッシュタグ #確かな情報を得る訓練 をつけて共有しましょう。
▼詳細はこちらのブログ記事で
bsky.social/about/blog/0...
災害後には間違ったことで不安をあおる話や、いいかげんなうわさ話である「災害デマ」がSNSで流れがちです。
地震雲や地震予知がその典型です。
災害デマに振り回されないために知っておきたいことをまとめました。
ぜひご一読ください。
#確かな情報を得る訓練
【映画日記】『センチメンタル・バリュー』(2025年)@109シネマズ二子玉川
ダコタ・ファニングがどういう使われ方をするのだろうと興味津々だった。結論、ものすごくよかった。ノルウェーという地で異分子(アメリカ人の大物女優)で浮きまくっていることこの上ないが、それを承知で真剣に役に取り組み、結果的に自分では荷が重すぎる、自分に向いていないと降板する人物というのは、ハリウッド映画ではなかなかあるまい。
娘たちが幼いころに家を出ていった巨匠である映画監督の父の身勝手さも故あってのことだった。
大人になってからの親子関係の修復の難しさを示しつつ、どう折り合いをつけていくのか、を考えさせる佳作。
【イベント日記】『私の真ん中』 @渋谷キャストアパートメント
作家の温又柔さんのトークイベントだ。温さんの作品は、読み終えたあとに、いつも「命を削って書いている」印象を受ける。昨日の対談で、この作品を書いたのは、「宙づり」の自分を助けるために書いた、書いている自分も必死だった、という話が出てきて、納得がいった。
対談終了後、サインをお願いし、本を買ってからずっと気になっていたアホみたいな質問を思い切ってしてみた。
私「これ、新世界の通天閣みたいですけど」
温さん「違うよ~(大笑)」
そばにいらした編集者さん「京都タワーともよく言われます」
私「いや、京都タワーは構図が違います(きっぱり)」
【読書日記】温又柔『真ん中の子どもたち』(白水Uブックス、2025年)
最近、とみにエミール・シオランの「祖国とは国語」という言葉を思い返す。では、「国語」とは? 両親が話す言葉が違う家もあれば、両親が話す言葉は同じでも、周囲が話す言葉が違う家もある。そのとき、その子どもにとっての「国語」とは、「『母』国語」は何になるのか。
解説の川村湊の最後の一文にしびれました。田村隆一の詩を引用するなんて、もう、かっこいい。『「言葉なんかおぼえるんじゃなかった/日本語とすこしの外国語を』と日本の詩人は詠ったが、言葉をおぼえなければ、何も始まらなかった。ミーミーにも、灯子にも、そして温又柔にも』
【読書日記】金原ひとみ『マザーアウトロウ』(U-NEXT、2025年)
わたしには、金原ひとみはこれくらいの濃さがちょうどいい。タイトルは「ぶっ飛んだ義母(mother in law)」にちなんでいるが、outlawといっても犯罪者とかそっち系ではけっしてない。
恣意的で融通の利かないルールや法から可能な限り自由でいる代わりに、自分のことは自分で責任を負う。誰かといても、家族があっても、最後は個として責任を全うする。人間関係とか、話はそれからだ。個をもっているどうしの関係性ほど、愉快で豊かで強いものはない。
主人公の最後の決断は穏やかなように見えるけれど、ものすごくアバンギャルドで強い。
【読書日記】落合博満『戦士の食卓』(岩波書店、2021年)
「満腹から満足へ」という食事に対する意識の変化に同意しつつも、戦後・地方生まれの本音がたびたび顔を覗かせ、飽食の時代なんて贅沢を言っていいのか、という暗黙の苦言が伝わってくる。三つ子の魂百まで、だ。
自分の頭で考えず、入って来る情報を咀嚼せずに「このサプリがいい」とか「炭水化物の摂り過ぎはよくない」と受け売り状態で実践することに警鐘を鳴らしている。何度も、食に関する常識は変化すると書いているが、まさに。同じ時代に相反する情報が流布することも多い。そのとき、何を信じるか。
信子夫人の食と広報でのフル後方支援に驚嘆した。
国会図書館データベースより
そんなにルパン嫌いですか
@libro.bsky.social
イギリスでは「パント」と「マイム」が区別されるということを知った、ラッシャー貴子さんの寄稿記事はこちら。
www.newsweekjapan.jp/worldvoice/l...
【演劇日記】THE GAMARJOBAT THEATER 2026「ピストルと少年」@紀伊國屋サザンシアター
「ピストルと少年」は新作だ。HIRO-PONことが~まるちょばが一番やりたいのはこの芝居なんだろう。一人で追う側(刑事役)と追われる側(元高校球児・元プロ野球選手で銀行強盗の犯人)を演じ、舞台にいないほかの登場人物を、表情や動きで観客に感じさせる技量に感じ入る。このお芝居で、わたしはHIRO-PONに頭の上をまたがれた(笑)。
「ぜひパントマイムが演劇であること/そしてが~まるちょばは役者であるとお見知りおき頂けたらと思います」
役者としての矜持を見た。
【読書日記】落合博満『戦士の休息』(岩波書店、2013年)
秋田の小さな町で生まれ育った落合の子どもの頃の娯楽は映画だった。当時は小さい町にも映画館があったのだ。
落合が好きな俳優はオードリー・ヘプバーンとジョン・ウェイン。ジョン・ウェインが好きな理由は「だってカッコイイじゃん」。くだくだしく御託を並べないのがいい。そして理由が必要なところは、自分の言葉でちゃんと説明する。ちなみに、人生でナンバーワンの映画は『チキ・チキ・バン・バン』
山田洋次監督との対談で、日本は近未来を描いた映画が少ない、と指摘しているのに唸らされた。言われてみれば、そうだよね。
【読書日記】宮崎智之編『精選日本随筆選集 歓喜』(ちくま文庫、2026年)
夏目漱石の「自転車日記」は傑作だ。イギリスの路上で自転車練習をしている風景を淡々と描いているのだが、巧まざるユーモアがにじみ出て、思わず頬が緩む。あの漱石が、木に激突したり、周囲に笑われたりしながら、必死の形相で自転車に乗っている様子を想像するだに、笑わずにいられようか。
北原白秋の「ほう、ぽんぽん」とは、若山牧水が歩きながら刻むリズムのことで、「ほう、ぽんぽん」=牧水で、どこにいてもわかるという。ほとんど「ほう、ぽんぽん」しか出てこないのだが、ふたりでにこやかに歩いている姿が想像できる。
【演劇日記】三谷幸喜作・演出『いのこりぐみ』@IMMシアター
小栗旬が若い小学校教師、相島一之が小栗のかつての担任で今は小栗の学校の教頭、平岩紙が小学校5年生の担任、菊地凛子が平岩紙が担当するクラスの生徒の「クレーマーでモンスターペアレント」という配役だ。
かすかな、ごくかすかな違和感から、小栗が名探偵よろしく状況の視点を180度転換させていく。菊地凛子が腕に貼っている湿布(腱鞘炎治療)がまさか伏線だとは。黒板に平岩紙が書き、のちに小栗も書く数字の謎は、最後の最後で明らかになる。ミステリ好きの三谷らしいな、という作品。
犬がいるコワーキングスペース、いいなあ。
【読書日記】筒井康隆『短篇小説講義』(1990年、岩波新書)
ここに紹介されている作品は、筒井が吟味して、従来の短編小説の枠から大きく外れてはいるが、むしろこちらの方が名作ではないか、と選んだだけのことはある。
最後のローソンの「爆弾犬」は、筒井が書いたと言っても騙されそうなスラップスティックだ。ギャグの作法をきちんと踏襲し、過度な説明は避け、品が悪くならないよう慎重に計算されたネタの投入はお見事。電車の中で読んでいたのだが、我慢できずに「ぐふふ」と笑いが漏れてしまって、周囲の人は気味悪かっただろうな。これ、通しで読んでみよう。
【読書日記】国枝史郎『犯罪列車〔完全版〕』(春陽文庫、2026年)
表題作は1937年に地方紙で連載されていた。新婚旅行が熱海、上海の魔窟、悪役の描き方などが時代を感じさせる。国をまたいだ大捕物、変装など、かつてテレビ朝日で放映していた天地茂の明智小五郎シリーズを彷彿とさせた。
短篇の「闘牛」「奥さんの家出」はオフビートなユーモアがある。思わず笑ってしまった。
『半分姉弟』が第30回手塚治虫文化賞のマンガ大賞の最終候補にノミネートされました!!
あまりにもメンツが強すぎて笑ってしまったしここに並んでるだけでも一生の思い出なんですが、
大好きな手塚先生の名前を冠したこの賞、何年かかっても絶対取りたい💪❤️🔥💪❤️🔥💪❤️🔥
引き続き粛々とがんばります🫡
第30回手塚治虫文化賞 「マンガ大賞」ノミネート10作品が決定:朝日新聞 www.asahi.com/articles/ASV...
【展覧会日記】『性別越境の歴史学-男/女でもあり、女/男でもなく-』@國學院大學博物館
museum.kokugakuin.ac.jp/special_exhi...
いわゆる性/性差の概念や枠組みが明治以降の産物で、昔は神話でも、現実でも、男/女の壁など軽やかに越えて、双方とも自由に行き来していたことがわかる。
最後に「ある『性別越境者』の生涯」をもってきたのは大成功だ。昭和初期の栃木の塩原温泉の女装おいらんの「清ちゃん」の花魁姿と、出征の時の写真が並ぶ。戦死したこと以外、詳しいことは不明だそうだ。この時代にこんなパンキッシュな生き方していた人がいたんだな。
2月23日(月祝)まで。
本日発売日です!!!どうぞよろしくお願いいたします🙇♀️
紀伊國屋さんにて、このようなフェアもやっていただいております!掌編もあります、ぜひ…!!
Frederick Wiseman, 96, Penetrating Documentarian of Institutions, Dies www.nytimes.com/2026/02/16/m...
リストを見ると、3位に『僕たちの青春はちょっとだけ特別』(雨井湖音)もランクイン。この本も面白かった。
www.shelf2011.net/2025list
生まれてから28年間埼玉県民で、高校まで埼玉の学校に通っていたのでので、これは嬉しいし誇らしい。ハン・ガンや朝井リョウの新作も入ってる。やるなあ。
【読書日記】三島由紀夫『夏子の冒険』(角川文庫、2009年)
三島の作品は、こういうコミカルなものしか読んでいないダメ読者だが、コミカルな作品でも三島の文章の吸引力は健在だ。思わず吹き出す箇所もいくつもあった。真面目な顔して何書いてはるの、まったく。これだから天才は。
王道のラブコメにしないところもさすが三島。題材が熊狩りっていうのも驚くし、最後の5行なんて腰を抜かしましたよ。真のお嬢様たるもの、これくらい世間を振り回して平気の平左でなきゃいけないけれど、それにしても気持ちよく裏切られたなあ。主人公の祖母、伯母、母は、女三人寄れば何とやら、とよく言うが、それを小説にするとこうなるわけだ笑
【読書日記】角田喜久雄『歪んだ顔』(春陽文庫、2026年)
表題作をはじめとして、戦後すぐの雰囲気がストレートに伝わってくる作品5篇が収められている。復員兵の話が多く、国鉄(JRじゃないよ)のガード下にまだ復員兵がいたのを覚えているわたしは、読みながら彼らのことを思い浮かべていた。
表題作は、犯人が人間の心を喪っていて、薄ら笑いを浮かべながら、他人を操縦するのが心底おぞましい。わかりやすい暴力や暴言ではなく、じわじわと心のひだに入り込んでくる恐怖なので、対処が難しい。目に見えない、言葉にしがたい恐怖に、いつのまにか支配されていく人間という存在は、今も変わらない、と思い至る。