前回→
bsky.app/profile/ligh...
前回→
bsky.app/profile/ligh...
次→
bsky.app/profile/ligh...
「大丈夫――あ、ほらちょっとずつゆっくりになってきた。もうすぐ終わるっすよ」 ダサい。いくらなんでもダサすぎる。来て早々、しかも一発目からこんなになることある? こりゃ誘われても遊園地に行けなかったわけだ。徐々にゆっくりになり、地面が近付いてきた。カチャン、と安全装置が外れて、係員のひとに心配されながらオレは三井サンを抱える。そのまま近くのベンチに転がした。 「水持ってたよね? 探すよ」 鞄の中を勝手に探して取り出しておく。今はまだ飲めなさそうだけど、用意しておくに越したことはない。頭を高くしておいた方が楽かな、と思って膝の上に頭を乗せてあげた。こうなったらもはや、周りの目とかを気にしている場合じゃない。 「悪い……」 蚊の鳴くような声で謝る三井サン。笑っちゃうくらいかっこ悪いけど、でも三井サンって元々かっこ悪いところが真骨頂みたいなとこあるし。「大丈夫」と答えて邪魔そうな前髪を避けてあげた。 「でも乗れないなら早めに言ってよ」 「乗れると思ったんだよ……」 自分の三半規管を信用しすぎた、と三井サンは青い顔で続ける。ジェットコースター系は、速いし回らないから大丈夫らしい。基準がよくわからない。 「オレでよかったね」 ほんとに。女の子だったらあんまりダサくて見捨てられてたかも。オレがそう言うと、三井サンは「おー……」と目を瞑ったまま聞いてるんだか微妙な返事をした。 *** あの日、「遊園地デートって何するのが正解だ?」って話になったオレたちは、色々あーだこーだ言い合った結果、事前にひとつだけ、ある取り決めをした。 「はーい、お足元お気をつけてお進みくださーい」 昼過ぎまでは賑わっていた遊園地も、陽が傾いてくると家族連れが帰り始めてさらに人が少なくなってきた。遊園地ではメイン級の乗り物であろう観覧車まで、ゴンドラをいくつもあけて乗れるような状態だ。 ――観覧車の頂上で?
――うん。 「ほら、急げよ」 「わっ」 まだ余裕はあるんだろうけど、こういうのは一体どこまでセーフなのかわからない。オレは三井サンに手を引かれてつんのめるようにしてゴンドラの中へ入る。にこやかな表情を崩さない係員が、慣れた手つきでバタンと扉を閉めた。 ――いくらなんでもベタすぎねえか? ――聞いてきたのそっちじゃん! なんにも浮かばなくて「お前彩子と遊園地デートしたらやりたかったこととかねえのかよ」って聞かれたオレは、高校時代に考えたことがある、ちょっとした妄想を答えた。 「おー、すげえな」 「……っすね」 それが、〝観覧車の頂上でキス〟。そういうのは別に決めてやるようなものじゃないってなった気がするけど、三井サンは覚えているんだろうか。「こっちの方がよく景色見えるぜ」と呼ばれて、隣に並んで座る。 「おー……」 「な、夕陽綺麗だろ」 「ちょっと眩しいけど」 今日一日は、なんだかんだ楽しく終わった。三井サンが酔っちゃって休憩してた時間も多かったけど、想像してたよりずっと気まずくならなかったし、ふつうに楽しかった。でも、恋人らしかったか? って聞かれると微妙。今まで通りのオレらって感じだ。 「園内全部見えるわ。お、あれなんだ?」 「えー、あれじゃね? ジェットコースターのあとに乗ったやつ」 やっぱり忘れてるのかも。観覧車は最後に乗ろうってことになってたから、終わりに近づくにつれてどうなるのか心臓バクバクだったけど、その必要もなかったみたいだ。オレはホッとして「あれ見てよ」と言おうと振り返る。 「あ、――」 口に出せたのは最初の一文字だけだった。するりと手の甲を撫でた指が、オレの手をギュッと握りこむ。でも今回の三井サンの顔は、真っ青じゃない。
夕陽の反射で表情のよくわからない顔と掴まれた手とを交互に見るオレに、三井サンは「ん?」と首を傾げる。 「キス、すんじゃねーの? 頂上で」 ドクン、と心臓が大きく鼓動した。一気に空気が変わって、手のひらと背中に汗が滲む。 「お、ぼえてた……ん、だ……」 目を逸らしたいけど、そうしたら負けな気がして意地でもジッと目を見つめ返した。三井サン越しに見える後ろの景色はどんどん高くなっていく。頂上まで、多分あと少し。前はあんなに自然にそうなったけど、次もってわけにはいかないみたいだ。心臓が口から飛び出しそうで、思わずキュっと唇を噛む。 「……大丈夫か?」 「……大丈夫」 頷いて、もうすぐ頂上なことを確認して目を瞑った。あれ、でもこれじゃ三井サンにやらせることにならないか? こういうときはオレからした方がいいのかな。そもそも言い出したのはオレだし、ならオレから――なんてごちゃごちゃ考えてたら、掴まれていた手が離された。 「えっ」 片目を開くと、オレの方を向いていたはずの三井サンはいつの間にかまっすぐ正面に向き直っていた。横目にオレの方を見て、それで乱暴に頭を撫でる。 「え、ちょ……」 こっちは覚悟してたってのに。でもどこかホッとしている自分もいて悔しい。オレたち、これならそのままでいられるんだろうか。オレが「なんで、」と聞くと、三井サンは「んー……」としばらく頭を悩ませた後、「なんかこういうのって、やっぱ決めてやるもんじゃねえだろ」と答えた。 「そ……っ、か……」 ホッとしてたはずなのに、もうしないんだってわかったら今度は急に悲しくもなってきた。そりゃそうだよな、無理だよな、できっこない。だってオレたちなんだから。この会わなかった間、ちょっとだけ、ほんとにちょっとだけ。三井サンと恋人になったら、ってのを考えてみたりした。あんまり上手く想像できなかったけど、でも楽しくやれるかもって、そう思ったこともあったのに。
結局そのあとは、また最初みたいに景色をみてあーだこーだいって、終了。観覧車は最後にするって決めてたから、閉園のチャイムを待たずにそこを去ることになった。
(8/8)
「デートって、あのデートか?」 「うん」 着拒を解除して電話しようとした瞬間、向こうからかかってきた。で、開口一番大騒ぎで話にならない三井サンに、結局オレは「今から行くから」とだけ言って切ってしまったのだ。マミちゃんはその様子をみてひとしきり笑って「私も彼女が迎えにくるって言ってるから大丈夫。行ってきな」と背中を押してくれた。当然、飲食代はすべて奢った。 で、今。店を出たら迎えに行くとうるさかった三井サンに場所を教えて、変に静かだった車内から部屋に戻って、オレはこの間のこと、ちょっと時間がほしかったこと、この先どうするべきかわかってないことを話した。三井サンはどうなのって聞いたら、向こうもイマイチわかってなかったみたいで、とにかくオレが逃げたから本能で追いかけてきたって、それだけだったっぽい。なんだよそれって拍子抜けしたけど、ある意味それも三井サンっぽいよな。 「試しにデートしてみたらハッキリするんじゃないかって、マミちゃんが教えてくれて……」 「マミ……ってあの、前にフラれてたやつか。は? また会ったのかよ」 「いやしゃーないじゃん、こんな話誰にすりゃいいのかわかんねーし……」 そもそもなんでアンタがムッとすんだよ、と思うけど、それもこれも試してみたらハッキリするはず。「まあ別になかったことにしたいってならそれでも……」とオレが言いかけると、三井サンが「そういうことじゃねーよ」と遮った。オレとしても、ここでもとに戻ったところでまた同じことが起きるような気がしないでもないから、ハッキリさせておきたい。 「デートってなにすんの」 「んー……めっちゃベタベタな、超定番な感じ……?」 要はそれをやってイメージをつけろってことなんだろうし。三井サンは首を傾げている。確かにこのひと、あんまり自主性のあるデートってしてきてなさそうだ。なんかそんな感じの理由でフラれてたこともあった気がするし。 「あー……ほら、手、つないで、とか……」
オレはデートの計画とか立てるのは得意な方だけど、でもこれは女の子とのデートじゃなくて三井サンとのデートだ。え、三井サンとのデート? 今さらになってなにそれ、ってなってきた。大丈夫なのか? オレ。三井サンの方もイマイチわかっていそうにない。 「手ぇ繋ぐって……」 「わっ」 これじゃダメなのかよ、と突然ギュッと手を握られた。恋人つなぎってやつ。いやでもこれ正面だけど。こんなん全然違うってわかってるのに、それでも何故か心臓がバクバクするのは何かの誤作動だ。 「……これはちげーじゃん」 手のひらがじんわり汗をかきはじめて、オレは繋がれた手を振り払った。こんなんでマジで大丈夫? え、オレ三井サンと雰囲気いいレストランとかいってロマンチックなことすんの? ほんとに? 振り払われた三井サンの方は「ふうん」とちょっと不機嫌そうに手のひらを眺めていた。 「どこ行く?」 「えー……どこだろ……」 デート、デート、と考える。大人になってから、あんまり真剣に付き合った相手がいないってのもあって、なかなかそういう場所が浮かばない。映画……じゃいつもと変わらないし、水族館ってのもあんまり想像つかない。寿司食いたいねってなって終わりな気がする。あと定番のデートスポットといえば――……オレは高校時代のピュアだった頃の理想を一生懸命呼び起こした。 「……遊園地?」 こうして、オレたちはもう二十代も後半に差し掛かった今になって遊園地デートをすることになったのだった。 *** 「どうする?」 「さすがに乗り放題券とかは……いらねえっすよね……」 「え」 「え?」
さすがに有名テーマパーク、ってわけにもいかず、オレたちは昼過ぎというなんとも微妙な時間から、知っているひとのいなさそうなちょっと離れた土地の小さめな遊園地にやってきた。こういうとき、バスケがマイナースポーツで助かる。もしオレたちがサッカーとか野球の選手だったら、一瞬でファンにバレてただろうし。さすがにふたりで遊園地は、変な勘ぐりをされてもおかしくない……と思う。 「もう買っちまったんだけど」 「うそお、やる気満々じゃん」 「うるせ」 乗り放題券の購入者であることを示すためのリストバンドを渡されて、それを手首に巻いた。まあそんなに高くないしいいか。こうなったらとことん楽しんでやろうじゃん、と謎の気合いが入る。 「にしても空いてんな」 「まあ平日だし、こんなもんじゃないすか?」 三井サンはこのお試しデートのために、練習のない日に合わせてわざわざ有給をとったらしい。オレもオレで色々忙しいけど、会社員って大変だ。園内には未就学児くらいの年齢の子供を連れた家族連れがぱらぱらいるくらいで、つまりは―― 「……もしかしてオレたち、めちゃくちゃ目立つか?」 「そうかも……」 これならむしろ、有名テーマパークに行った方が人ごみに紛れられてよかったかも、なんて考えてたら「ん」と手が差し出された。オレが首をかしげると、手を差し出したまま、三井サンは照れたように顔をしかめる。 「……繋ぐんじゃねーのかよ、手」 そう言われて、やっと自分の過去の発言を思い出した。そういえば言ったかも、そんなこと。 「さ……すがに、無理っすよ、……昼間だし、人の目あるし」 オレがそう言うと、三井サンは「そーかよ」と手を引っ込めてしまった。そうなると急に、なんかちょっと申し訳ないことをしたような気がしてくる。 「と、とりあえずいこ。適当に見て回って、乗りたいのあったら乗る、って感じで……」 「ん、オッケー」
デートに行こう、と言ったはいいものの、なかなか丸一日の休みが合わなかった。それで結局冬が終わって、季節は春に差し掛かっている。この間、オレはどういう態度をとるべきかわからなくて会わずにいたから、こうしてふたりになるのすら久々だ。 「三井サン絶叫系とか大丈夫なタイプだっけ――」 そもそも遊園地に来たのすらいつ以来だろう。中学の遠足とか、もはやそのレベルだ。しかもデートか、これ。そう思ったらなんだかちょっと緊張してきた。しょっぱなからジェットコースターは勿体ねえだろ、とか言いながらよくわかんない、気球だかロケットだかを模した乗り物に興味ありげな三井サンの横顔を盗み見る。テーマパークとかだったら耳とか、つけたりしたんだろうか。何色のが似合うかな。整った顔してるから、王道のやつが良さそう。彼女といったり、つけたりしたことあんのかな。 「宮城?」 「え? あ、ごめん、ちょっとボーっとしてた……」 そんなことを考えてたら、いつの間にか乗り物の前に到着していた。笑顔の係員さんに見送られて、オレらだけを乗せた状態で乗り物が動き出す。多分子供向けっぽい小さな座席に他よりちょっと体格大きめのふたりでぎゅうぎゅうに押し込まれたけど、絶対別で乗って良かった。若干音割れした音楽とともに回り出したそれは最初はゆっくりだったものの、だんだん上下に大きく揺れながら速度を上げる。 「うわ、これ結構速い!」 景色がぐるぐる回って、ふわふわするのが意外と面白いな、って思ってたら隣り合っていた手が握られた。今なら元から近いから大丈夫ってこと? 手汗すごいし。緊張してんの、とチラリと隣を見ると―― 「え、うわ! ちょ、大丈夫!?」 三井サンはギュッと目を瞑って、真っ青な顔をしていた。オレの呼びかけに頷くくらいの気力は残っているものの、今にも倒れそうだ。このひとの吐きそうな顔なら、高校時代にいやってほど見てる。だから今はまだそこまでじゃないってのはわかるけど、もう手を握られてどうとかそういうことじゃなくなって、オレはギュッと手を握り返して必死に隣の三井サンを励ました。
昨日あげ損ねてしまった…来週おやすみで、再来週の3月最終週に更新&完結です!
リョに「結婚しないで」って言われて結婚するのをやめた三とリョがだんだん三リョになる話の続き
『恋なんかじゃない』7(4/8)
そーちゃんとりょーちゃんにも弱いんですよ、当然 りょーちゃんとあんなにも弱い
ついでに🦍とはるこちゃんはもちろん、🦍とはなちにも弱い
いつもそのガバガバ計算で取り組んで、できるわけもなく徹夜してしまいます(ばか)
きょうだい愛に弱過ぎるから、ずっと真希と真依、脹相と虎杖のこと考えてる
チ。を観始めた❣️
え!!!!お誕生日おめでとうございます!!!!素敵な一年になりますように🫶
前回→
bsky.app/profile/ligh...
次→
bsky.app/profile/ligh...
「それで私に連絡してきたんだ」 「はい……」 オレは素直に頷く。こんなことを相談できる相手なんていないし、こういうときどうしたらいいか聞ける相手なんて身近にいない。いや、こういう系の話をできたひとなら確かにいたんだけど、今回はそれが当事者だし。 「……オレさ、今まで女の子とは付き合ったことあるけど……男とって、なくて……」 「まあ、多くの人はそうだよね」 「もうさあ……わけわかんなくて……」 オレは大きなため息をつく。自分の中で考えてみてもどうにもわからなくて、あのとき起こったことが一体何だったのか、これからどうすればいいのか。考えても考えても答えは出ないし余計に混乱するし、自分がどうしたいのかも曖昧で、藁にもすがる思いでしばらく連絡をとっていなかったマミちゃんにまでメールしてしまう始末だったわけだ。 「……マミちゃんはさ、なんで自分がその……」 「女の子が好きだって気付いたかって?」 「あ……はい……そう……」 あっけらかんとした感じで聞き返されて、オレはちょっと気圧されながら頷く。マミちゃんはさして気にしていない様子で「そうだなあ」と紹興酒を注いだ。 「私はもう、物心ついたときから女の子が好き! って感じで……逆に男の子を好きになることなんてあるの? ってくらいだったから、あんまり参考にはならないかもなあ……」 まあそりゃそれなりに悩むこともあったけど、どうしようもないしね、とマミちゃんは笑った。男と付き合った方がいいのかなと思ってやってみようとしたこともあるけどまったくダメだった! と明るく語る彼女もきっと、こういう風になれるまでにいろんなことを考えてきたんだろう。 「あー、でも、ビビッてくることはある! それこそ今の彼女とかはほんと、初めて会った瞬間、この子だ! って思って。それで向こうが同性もいけるかとかなーんにも考えずにアタックしまくっちゃった」 ふふ、と幸せそうに微笑むマミちゃんは本当に彼女のことが好きなのだろう。服もメイクもネイルも、全部彼女好みのものなのだとマミちゃんは言った。
それだけ振り向いてほしいと思える相手に出会えるなんて、きっとすごく幸せなことだ。 「んー……そういうのはむしろ、私じゃなくて彼女の方がわかるかもなあ。あの子元々ノンケ気味だったし……私と付き合うときも相当悩んでて……でもだから今日ここに来るの許してもらえたんだけどね」 オレがマミちゃんにフラれたことを三井サンに話したように、マミちゃんはマミちゃんでオレのことを、多分何か悩んでるってことまで彼女と話していたみたいだ。 「……彼女さんは、結局どうやって決めたって?」 「うーん……それがさ、正直わかんないんだよね……ある日急になんか決意したみたいな顔で〝付き合う〟って言ってきて……もう嬉しくて、なんで? とかそれどころじゃなかった」 へへ、と笑う彼女の台詞はもう完全に惚気だ。でもそんなこんなでもう付き合って数年だっていうからすごい。 本当は初めて同性を好きなのかもって思ったときのこととか、自覚するってどういうことかとか、本当にそうなのか確かめるための手段とか、そういうことを聞きたかったんだけど、物事はそう簡単にはいかないらしい。オレは小さく「どうしよう……」とため息をついた。彼女さんに会わせてくれ、ってのはさすがにやりすぎだよなあ。マミちゃんは「そうだなあ」と口を開いた。 「リョータくんはさあ、どう思うの?」 「どうって……」 「そのひとのこと、好きだと思う? 恋、してるなって思う?」 「恋……」 そのワードを飲み込んで、考えてみる。恋。オレが今までそうだと思ってきたのは、やっぱり可愛い女の子に対する、キラキラふわふわした感情で、素敵な子だなーとか、この子といたら幸せだろうなーとか、幸せにしたい、笑顔が見たいって思うような、そんなものだった。アヤちゃんにフラれたときだって、アヤちゃんがこの先オレとじゃなくても世界一幸せになってくれるなら、それでいいとさえ思った。ああいうのが恋。だとすれば今のは、全然違う。もっとぐちゃぐちゃで、どうしようもない。あのひとの近くにいるときっとめちゃくちゃになっちゃうから、ダメだって思うのにそうなってしまいたいような気もする。最初からずっとそうだった。
泣きたくなるような気持ち。こんな幸せでもなんでもないもの、そんなのは。 「恋……とか、じゃ、ない……と思う」 オレが絞り出した言葉に、マミちゃんはしばらく黙り込んでから、「そっか」と言った。彼女は頬杖をついて、こちらをジッと見つめている。 「じゃあその先輩とはこのあと、もう縁切っちゃうの?」 「えっ」 「だって今、めちゃくちゃ気まずいんでしょ? このままフェードアウトするってことだよね、今のままだったら」 「……」 それについて考えていなかった。都合のいい話ではあるけど、これから先も同業だから関わる機会もあるわけだし、なんだかんだ元に戻れるかなってそんな楽観的なことばかり。でもよく考えたら、あんなことがあって友達に戻ろうってのも、双方の同意がきちんとないと無理な話かもしれない。オレは三井サンがどうしたいか、何も知らないし。 「……ねえ、これは提案なんだけど……」 「……提案?」 マミちゃんは、何かをはかるようにオレの目を見ていた。火をつけっぱなしの鍋がぐつぐつと煮えている。その熱気で、正面に座る彼女の姿はゆらゆら揺れていた。 「試してみたら、いいんじゃないかな」 「……試して……」 「うん、そう」 マミちゃんは頷いて、にっこり微笑んだ。前もつけていた小さな石のついたネックレスがキラリと光る。 「デートに誘うの。で、〝デートっぽく〟過ごすわけ。……結局リョータくんが心配なのは、相手とちゃんと恋人になれるか、って部分だと思うんだよね。だから、お試しでやってみたら想像つくんじゃないかなって」 ね、と言われて、もうよくわかんなくなっていたオレは「そっか」と頷いてしまった。ここしばらく、ひとりで悩み続けたこのわけのわからない感情に、どうにか答えを出したい。そのためにはもっともな提案だと思ったのだ。じゃあほら、とマミちゃんが置きっぱなしの携帯を指さす。
「着拒解除して、今電話かけて。デートいこって、誘うの」 オレはごくりと唾を飲み込む。穏やかな微笑みを湛えた彼女の声に導かれ、まるで魔法にでもかけられたかのように、オレは着信履歴の画面を開いた。
次回はデート編🎶(8/8)
待ち合わせは十九時。オレは落ち着かない気持ちで十五分前から店の前をウロウロし、五分前には先に入るね、とメールを入れて店内へ足を踏み入れた。 「いらっしゃいませー」 店内にはスパイシーな香りが充満していて、辛いものが苦手だったらこの時点でもうキツそうだ。オレは店員に予約の名前を伝えて、テーブルに案内してもらった。個室で会話を他人に聞かれにくい、ってのを条件で探した店だ。 「メニューこちらになります。ご説明は——」 店の説明をしようとする店員の後ろから「リョータくん!」と声がした。 「マミちゃん。おつかれさま」 「遅くなっちゃってごめんね〜!」 「いや、全然。オレが早すぎただけだし」 マミちゃんが席に座ったところで、ふたたび店員が説明を始めた。それを一通り聞いて、一番おすすめっぽいメニューを頼んでおく。店員がかしこまりました、と下がっていったのを見届けて、オレは口を開いた。 「忙しいとこごめんね」 「ううん、全然。ていうかリョータくんこそ忙しかったんじゃない?」 その台詞に、オレは思わずうっ、と言葉を詰まらせる。なにせオレは、マミちゃんからフェードアウトしようとこのしばらく連絡を取っていなかったのだ。 「しばらく連絡返してなくてごめん……」 「大丈夫だよ〜、大したことメールしてたわけでもないし!」 謝るオレににっこり笑いながら鍋の具材をガンガン追加していくマミちゃんを見ていたらだんだん、嘘をついているのが申し訳なくなってきた。元々そこが居た堪れなくて連絡を取れなくなっていたわけだし。基本的にオレは女の子に対しては正直に、優しくありたいと思ってる。今日こうして呼び出したのは、謝りたいからでもあった。オレは深呼吸をして頭を下げる。 「——ごめん!」 「え?」 驚いた表情のマミちゃんに、オレは申し訳なく思いながら、頭を上げずに説明する。こんな良い子に嘘なんて。
「オレ……その、前に会ったとき……嘘、ついてました……えっと……オレは別にゲイってわけじゃ——」 「知ってるよ」 「えっ」 今度はオレが驚く番だった。マミちゃんはなんてことない顔で、「いただきまーす」と野菜を口に運んでいる。「んー! 美味しい」と目を輝かせる彼女に、オレが「え、」とか「あ、」とか何も言えずに口をぱくぱくしていると、口いっぱいに入っていた肉を飲み込んだマミちゃんが代わりに話し出した。 「いやあ、私はほんとにそうだと思ってたんだけど……帰ってから彼女に話したら、〝それ絶対ノンケで、マミのこと狙ってたんだよ〟って言われちゃって……」 言われてみればそうな気もしてきたんだよねえ、と彼女はもうひと口、具材を口に運ぶ。 「え、でもそれじゃ……」 彼女にまでバレてるなら、いよいよ浮気ってことにならないだろうか? オレが狙ってたのがバレてて、それでも今日会ってくれてる理由って何? 謝罪なら聞いてやろうって、そういうこと? 疑問でいっぱいになって言葉を詰まらせるオレ。一から百までダサすぎる。マミちゃんはそんな青くなるオレをジッと観察するように見つめて「んー……やっぱりそうだよねえ」と呟く。 「私さ、結構勘とか鋭い方で……だからこういう読み、外すのってなかなかないんだよね」 「は、はあ……」 「だから彼女に言われてからもずっと不思議に思ってて。なんでかなーって」 こういう読み、ってのはすなわち、話している相手の恋愛対象が——ってことだろう。確かに話していると、マミちゃんはなんていうか……センスがいい。相手が自分をどう見てるかとか、自分がどこにいるべきかとか、そういうのをわかってる子なんだなって印象だった。……今考えると、そういうところが誰かと被って見えたんだと思う。 「で、リョータくんから久々に連絡きたでしょ? それで個室の指定ってなったらさあ、つまりはそういうことだよね」 「そういう……?」
「うん。〝私たちみたいな人間〟に、聞きたいこととか……相談したいことがるんでしょ?」 全部お見通しだったってわけだ。あまりにも華麗な推理に、オレは思わず固まってしまう。誰かと被るなって思ってたけど、系統とか見た目さえ違えどむしろ彼女の雰囲気に近いのは、高校時代のマドンナの方だ。アヤちゃんにはいつも、なんでそんなことまでって部分まで全部バレてた気がしてたのを思い出した。 「……あれ、違った?」 「ちっ……違わない、です」 マミちゃんの質問にオレは首を振る。そう、今日の目的はこれ。マミちゃんに聞きたいことがあったのだ。 「……前、別に彼氏じゃない……って言った先輩、いるじゃん」 「お、やっぱそのひとのことなんだ?」 オレが話し出すとニコニコ嬉しそうな視線を向けられて、なんだか恥ずかしくなってきた。オレは誤魔化すように香辛料たっぷりの鍋をひとくち食べた。この汗はそのせいだから。 「あのー……なんつーか……オレたち最近、ずっと変な感じで……」 「変な感じ?」 興味津々といった感じで首をかしげるマミちゃんに、オレはこれまで話してこなかったことまで正直に、三井サンとオレの間に何が起こったのかを話した。 「えーっと……オレらは高校時代の先輩後輩って話はしたと思うんだけど……」 「うん」 「その頃から……ときどき……ちょっとだけ、変な感じになることが……あって……なんていうか……だいぶ、距離、近いっていうか……」 ひとつひとつ、今までなんとも思ってこなかったことでも、改めて今の状況で口に出してみるとどんどん恥ずかしくなってきて、鍋は辛いし、口の中がカラカラになる。追加でソフトドリンクをオーダーして、運ばれてきた烏龍茶を一気に飲むけど、顔の熱は引かない。 「最近は……あー……ほぼ一緒に暮らしてるようなもん……っていうか…………あのひと、変なんだよね! なんかすごい……オレのこと甘やかそうとしてくるし……あー……」
「でも居心地いいんでしょ?」 「う……そう、それで……まあ入り浸り、みたいな状態で……ちょっと前までは向こうにも彼女……っていうか婚約者? がいたんだけど、なんかオレが結婚すんなっつったから、みたいな感じで別れたり……ってまあこれは関係ないんだけど」 でもこんなことになるなんて思ってなかった、はずだ。顔から火が出るほど恥ずかしいのに、一度話し始めたら今度は今までこんなこと話せる相手がいなかったから止まらなくなって、オレは言葉に詰まりながらも話し続けた。 で、ついに話した。この間起きたことまで。 「——え、そこまでいってキスしなかったの?」 「あー! 言わないで! まだ心の準備できてないから!」 目を丸くしたマミちゃんは、店員を呼んで紹興酒を頼んでいた。オレも飲むか聞かれて、うなだれたまま首を横に振る。 「うそぉ、それもう完全にキスする流れじゃん。なんで?」 「なんでって言われても……」 わからない。なにもかもが。あのとき、本当にあと数ミリのところで唇がくっついていたけど、確かなんか、ちょっと物音かなんかがして正気に戻ってしまった。オレはグラスをつかんで冷やした手のひらを額に当てて熱くなった顔を冷ます。 「えー……で、逃げ帰っちゃったんだ?」 それ向こうどう思ってるの、とマミちゃんは運ばれてきた紹興酒に口をつける。オレはその質問に答えるべく、携帯を取り出した。画面を開いて、着信履歴を見せる。 「うわっ、すごい数」 「今は着拒中」 「えっ」 マミちゃんは酷い、みたいな目で見てくるけど仕方ない。向こうが仕事中以外の時間はずっとなんじゃないかってくらい、本当に永遠にかかってくるんだから。いや確かにオレも逃げちゃったのは悪いと思うよ? でもあんなことが起きたんだから、ちょっとくらい時間がほしいって、こっちも。 「オレ、もうどうしたらいいかわかんなくて……」
こっちには先にあげちゃお🎶
リョに「結婚しないで」って言われて結婚するのをやめた三とリョがだんだん三リョになる話の続き
いつもリョちゃのことを逃げさせてる
『恋なんかじゃない』6(4/8)
みつりょはさ 朝のファミレスとか…いく?
にゃーん
メモリ値崩れでおっ🎶と思ってたけど空を遥かに超すスピードで経済が崩壊していく ガソリン代が上がると全ての物価が上がるんだ〜い 株価も終わり うーん 喧嘩やめてもらえないですかね 市民巻き込まないで闘いたい偉い人間たちだけでカードゲームとかで決めていただける❓
クレカ特典で3月の木曜日に500円で映画が見られる 誰か私とウィキッドを観ませんか
やばいな…本当に何もかもの時間がない 三リョ書きかけのバレンタインの話完成させたいんだけどホワイトデーが過ぎるまでなんか全然…暇がなくて…
前→
bsky.app/profile/ligh...
次→
bsky.app/profile/ligh...
オレはコーヒーの入ったマグカップを持ってそのあとを追いかける。 「オレが一日で八本も食うとでも思ったか?」 「わかんねーじゃん。めっちゃアイスの口だったかもだし」 三井サンは黙らせるようにオレの口にアイスをつっこんだ。オレはそれを落ちないように歯で支えながら、マグカップをコーヒーテーブルに置いてソファに座る。 「ねえ、てかさ、三井サンってうちのチームのフォワードと知り合いだったんすね」 「フォワード……ああ、産業大出身の?」 「そうそう」 フルーツ味のミックスになってるアイスは果たしてコーヒーと合うのか、三井サン的には疑問なようで、マグカップのうちひとつに入っているのはあったかいお茶だ。オレ的にはお茶も合うか微妙なんだけど。今日はオレンジ味。オレンジとか全然合うだろ、コーヒーに。 「そういや何回か先輩と何人かでメシとか食いに行ったことあんな……なんだよ、何か言われたか?」 「は? いや別にそういうわけじゃないすよ」 元ヤンはこうやってすぐ喧嘩を売っただの買っただのの話にしようとするからいけない。まあ確かにほんのちょっとだけ居心地は悪かったけど、駐車場で待ってる三井サンのことみてホッとしちゃったけど、でも別に誰も悪くないし。 三井サンがグレてたってことは、オレと、あとは神奈川出身の何人かくらいしか知らない。今の、ちゃーんと社会人やってる三井サンはなんだかんだ愛想も良くしてるし、上下関係も守る方だからアメリカ帰りってのと見た目とで遠巻きにされてるオレなんかよりよっぽど受けがいいのだ。 「第一あのひと、奥さんと子ども大事にしてちゃんとしてんじゃん」 「あー、そういやそうだったな。学生時代からずっと付き合ってんだっけ?」 「そー、すごいっすよね」 オレたちには無理。第一、そんな相手もいないし。そう呟いてオレンジ味の最後のひとくちを食べ終えた。棒が回収されていく。
ざあ、と水の流れる音を聞きながら、オレはコーヒーをひと口飲んで、ソファのひじ掛けに頭をのせる形で横たわった。ほどよい硬さのひじ掛けはこうやって枕にするのにちょうどいい。二人用に買ったからだろう、広いソファはオレが寝転がっても足を伸ばせるくらいの大きさがある。コーヒーを飲んだはずなのに、部屋は暖房で暖かいし腹もいっぱいでとろとろと意識の輪郭が溶けていく。 「眠い?」 「んー……いや……べつに……」 三井サンがオレの足を持ちあげて、その下に座ってきた。膝を曲げるくらいの気遣いは見せてやる。 「最近忙しそうだったもんな」 「ちょっとね……でもさー……バスケ、していくには……ほかのことも……ちゃんとやんなきゃだし……」 今週はちょっと、バスケ以外の仕事が立て込んでいた。リーグをもっと盛り上げようという協会やチームの方針で出演しているメディア関係の取材だの打ち合わせだの、そういう仕事はバスケよりもっと体力を使う。 「オレはまだ会社員だからあんまそういう仕事ねえけど、プロになると大変なもんだよなあ」 「んー……」 色々なことが脳裏を駆け抜けて行く。清水さん、引退するんだって。そしたらオレ、スタメンかも。引退したらどうするか考えなきゃだけど、それよりどうやったらもっと長くバスケしてられるか考えたい。ずっとずっとこうやって、あのときの延長戦みたいに過ごしてたい。 肘置きみたいにされてる膝が熱い。三井サンはマグカップに入ったお茶を飲もうとして、「あちっ」とそれをすぐテーブルに戻した。ちゃんと冷ましてから飲めばいいのに。ふ、と笑いがこぼれる。 「三井サンさあ」 「ん?」 やたらと柔らかい視線がこっちを向いた。ここ最近の日々はまるであの夏の続きみたいで、やっぱり喧嘩もするし馬鹿笑いもするけど、どこか心地いい。夜の海の、冷たくて、でも気持ちいい風を思い出した。 「今でも爺さんになってもバスケしてたい、っておもう?」
オレの突拍子もない質問に、三井サンは一瞬目を見開いて、その後何かに挑むように片眉を上げて笑った。 「当然だろ」 これから先のこと、三井サンはオレよりもっと考えてるのかもしれないし、やっぱり「それだけ」なのかもしれない。でも、そう返ってきただけで十分な気がした。 「オレも」 ちょっとでも長くコートに立って、走って、その先にもしいつか、一緒にできる日が来たら。眩しい部屋の照明を隠すように手をかざすと、その上からもうひとつ手が伸びてきて、オレの髪をくしゃくしゃとかき回した。大きくて温かい手だ。それがなんだか懐かしいような、心地いいような、胸の奥の方がざわつく。されるがままに目を瞑っていると、「なあ」と三井サンが口を開いた。 「やっぱさ、ここ住めよ」 「んー……」 これは最近の三井サンの口癖。ほぼ毎回言われてるような気がする。きっとこのひとは寂しいのだ。こんな広い家にひとりじゃ仕方ないかもしれない。 まあ実際、ほぼ住んでるみたいなもんなんだしそれならいっそのこともう一緒に住んでしまった方が楽なんだろうな、とは思う。 「嫌っすね」 はは、と笑いながら答えて、オレは起き上がった。よくわかんないけど、そこまで行ったらもうダメな気がする。ああ、なんか前にもこんなことを思ったことがあった。高校二年の冬、選抜のあと。もう理由もなくなったのに続いた夜の散歩。春が来て、三井サンは東京に引っ越すって言ってて、「遊びに来いよ」って言われたけど、オレは結局一度も行かなかった。あのときもおんなじだった。 「はー……じゃ、オレそろそろ帰んなきゃ」 オレがこう言ったら、三井サンはちょっと不機嫌そうな顔をして「送ってく」って言ってくれる。いつもそうだから。それを期待して立ち上がったのに、今日は違った。 「……え、」 「……別に帰んなくてもいいじゃねえかよ」 手を、掴まれている。
目を逸らした三井サンは唇を尖らせてムッとしているけれど、手のひらは微かに湿っていた。グッと手を引かれて、オレはふたたびソファに沈み込む。 「泊まってきゃいーだろ。……別に無理に一緒に住もうなんて言わねーから」 その顔が、あまりにも必死だったから。 「……アンタ、マジで寂しがりなんだね」 オレにそう言われて赤くなった頬が、どんな熱さか気になってしまった。 「……」 掴まれているのと逆の手で頬に触れると、三井サンは一瞬片目を瞑ったけれど、抵抗しない。くらくらと脳内が揺れる。あー、何してんだ。ダメだって。わかってんのに。 「傷……薄くなってきたすね」 目が合う。視線が意味ありげに揺れる。鼓動がはやくなった。薄いくちびるが弧を描く。 「もっかいつけるか?」 あーあ、近付きすぎた。
つづきはまた来週!(8/8)
「よっ……」 引っかかりもなくスムーズに放たれたボールは、心地いいスウィッシュ音をたててネットに沈む。調子は上々。 「宮城って自力で外からも決められんの、すげえよな」 「さすがはアメリカ仕込みってとこか?」 後ろから観察していたらしいチームメイトに「まあ、たくさん練習したんで」と返す。調子の波があまり大きくないのと、流れが悪いときに自力で得点できるということは、今こうしてプロの世界でもそこそこのプレータイムをもらえていることに、大きく貢献しているだろう。 「清水さんももうぼちぼち引退だっつーし、次のスターティングは宮城かなあ」 「はは、そうだといいんすけどね」 現在うちのチームのスターティングとしてポイントガードを務めている清水さんは、年齢的にはだいぶ若いが、全盛期のうちに終わらせておきたいという強い思いがあるようで、引退を考えているらしいというのはもっぱらの噂だ。 「お前、引退したらどうするとか考えてる?」 「うわ、やめろよ縁起でもねえな。考えてねえよ……つっても嫁子どもいるからなあ」 「そりゃちゃんと考えとかなきゃダメだろ~、奥さん働いてんだっけ?」 後ろで聞こえるあまり考えたくはない会話をシャットアウトして、オレはもう一度リングにシュートを放つ。今度はバックボードに当たり、リングの上をぐるりと一周回ってギリギリネットの中に落ちた。今日はもうこれくらいにしておこう。ボールを拾って片付け、変に絡まれないように「おつかれさまっす」とだけ声をかけてチームメイトの前を通り過ぎた。 正直こういう仕事は、いつ契約更新がなくなるかわからない。接触が多くて怪我もつきもののスポーツだし、突然使い物にならなくなる可能性だってある。だから清水さんの全盛期のうちに、って気持ちもわかるし、〝その後〟のことを考えなきゃいけないのもわかるけど、オレにはまだそれについて考える覚悟がなかった。 ——爺さんになってもバスケしてえなって、それだけ。 今になってあの言葉がよくわかる。オレも、それだけだ。だから居心地が良いんだろうな。そういう、根本のところが一緒だから。
考えごとをしながらのんびりシャワーを浴びてロッカールームへ戻ると、さっき話していたチームメイトたちがあがってきていた。 「——オレこの後、子どもたち連れて外食よ。今日嫁いなくてさ」 「マジ? 大変だなー、今いくつだっけ?」 「五歳と三歳。毎日戦場だって嫁がまあピリついちゃって」 そう言いながらも、チームメイトの表情は緩んでいるからきっと幸せなのだろう。かなり奥さん一筋で、学生時代から付き合ってた彼女らしいし。隣のもうひとりはオレより年上だが独身で、こちらは一転、遊び人だって噂だ。詳しいことは知らないが、確かに話題に上る女の子の名前はしょっちゅう変わる。 「お前は? 今日も誰かと会うの?」 「それがさ~、ドタキャン。昨日になって急に無理~って言われて。だから直帰よ、直帰」 「めずらしっ」 携帯に新着メールが届いていないかを確認して、適当にTシャツを頭からかぶる。年が明けてからグッと気温が下がったから、冬用の服をいくつか新しくおろした。今日のは肌触りがいいやつ。スピードを上げるためにウェイトを減らす方向で調整し始めたせいか、去年より寒い気がする。なんで関東の冬ってこんな寒いんだよ。ここですらこんな寒いのに、東北とかのチームに移籍になったらどうしよ、オレ。 「宮城は?」 「えっ?」 そんな関係ないことを考えていたところに急に声をかけられ、オレはまったく状況が読めずに間の抜けた声を出した。 「今日。まあどっか行く……わけじゃなさそうだけど、このまま帰んの?」 「え、あー……」 彼らがオレが今日どこにも寄らないと判断したのは、髪がそのままなのと服が適当だからだろう。我ながらわかりやすすぎてちょっと恥ずかしくなってきた。 「宮城も結構女の子とメシとか行くタイプじゃなかったっけ? 最近あんま行ってなくね?」
意外と他人のことをよく見ていて感心するような、そんなとこまで気が付かないでほしいような。まあだからモテるんだろうけど。オレは「やー……まあちょっと、最近はあんまっすね」と濁しておく。実際、マミちゃんとあんな変なことになったあと、オレはなんとなく誰ともデートする気になれなくてダラダラと日々を過ごしていた。 「お、じゃあ今日女の子誘って俺とメシいく? コイツ誘っても嫁さん一筋で来ねえからつまんねーのよ!」 「妻子持ち誘う方が馬鹿だろ」 ズバッと言われた正論に「ぐっ」と大袈裟なリアクションをとる、そんなところがなんとも憎み切れないポイントなのだろう。チームメイトとは交流を図っておくべきだし〝アメリカ帰り〟という一点のみでやや敬遠されがちなオレとしてはありがたい誘いではあるが、今日は既に先約が入っている。ちょうどメールがきて携帯が震えた。 「あー……お誘いはめっちゃ嬉しいんすけど、すみません。今日ちょっと迎えきてて……」 「え? 迎え? もしかしてもう彼女いる?」 「や、そーゆーんじゃないんすけど……」 三井サンのことは当然知ってるだろうけど、なんとなくここで名前を出すのも気が引けた。何と説明するべきか悩んでいると、いつの間にか着替えを終えていたもうひとりの方が「あれ、そういや」と口を開いた。 「こないだ東京の三井が来てなかったっけ?」 「え、三井ってあの、彼女めっちゃ可愛い?」 「馬鹿お前、だいぶ前に別れたっつって噂んなってたろ」 「うわ! そうだったわ」 「宮城、アイツと仲良かったよな?」 知らなかったが、どうやら三井サンの仲のいい先輩がこのチームメイトの大学時代の同期で、その辺りを経由して何度か一緒に飲んだことがある仲らしい。それで三井サンの元婚約者の噂も出回るのが早かったわけだ、と今さら納得した。 「あー……それっす。家近いんで、たまに一緒にメシ食ったりしてて……」 「へー、仲いいんだな」 「高校一緒なんだっけ?」
「あー、え、じゃあアメリカの桜木とか流川もってことだよな? すげー、どうなってんだその世代」 オレたちが同じ湘北出身だと知った人間がよくするこの反応にももう慣れてきた。まあ確かに、オレと三井サンは抜きにしても花道と流川は一学年で二人もアメリカ行き——しかもそのまま向こうでプロとしてプレーし続けるようなレベルのモンスターを排出したってのは相当なことだ。あの一年自体が奇跡みたいなものだったんだろうなって、今ならわかる。 「えー、でも俺、練習とか試合で散々顔合わせんのにそれ終わってからもバスケやってるやつと一緒にいるのとか無理だわ」 「お前、じゃあどのツラ下げて他人のこと誘ってんだよ」 「はは! 確かにそうか! いやまあほら、たまには! 基本はやっぱ女の子がいいって~」 ポケットの中で携帯が震える。あー、やっぱ今日誰か他の子誘おっかなあ、と肩を落とす先輩に「すみません、もう来たみたいなんで」と告げ、軽く頭を下げてからロッカールームを出た。 *** さっき、チームメイトたちに〝たまに〟と言ったのは嘘だ。 「ねー、とっといたアイス食べたっしょ」 「は? 食ってねえよ。ちゃんと探したか?」 「探した! けど箱ごとないし」 オレが文句を言うと、ソファに沈み込んで何かを読んでいた三井サンが立ち上がり、後ろから一緒に冷凍庫を覗き込んできた。肩越しに伸びてきた手が引き出しを開ける。 「あー、袋に移し替えてしまったんだよ。整理したから」 「それなら言っといてよ」 この部屋に最後に来たのは一昨日。その前は、さらにその二日前。なんだかんだ、スケジュールの許す限りほとんどの時間をこうして過ごしている。 「ほら、あっただろ」 見事、丁寧にチャック付きの保存用袋に移し替えられたアイスを探り当てた三井サンは、その中から二本取り出して開封し、ソファの方へと戻っていった。
リョに「結婚しないで」って言われて結婚するのをやめた三とリョがだんだん三リョになる話の続き
急に転がり落ちるように変な雰囲気になってほし〜を延々やってる
『恋なんかじゃない』5(4/8)
ウィキッドって実質五夏だな
まじでりょ〜たすと女の子の好みドンピシャで一致してると思う わたしは冥冥様もすきです 軸とか確固たる指針がある女がやっぱりサイコ〜にマブい りょちゃすもそう思うよね❓
ラフばっか
真希さんかっけ~~~~となり、描いた ラフ めろめろ……
ぁーしに春コミのスペ番教えて!って言ってたの誰だっけ⁉️
ちょっと今三リョに関してすけべしか書く予定がないんだけど7月は真面目な話もしたい‼️
あ〜〜〜〆切に押し潰されるより前にバレンタインすけべを完成させたい‼️
左右のことはまだそんなにわかってない